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水 沢 有 美

水 沢 有 美

水沢有美さんと<青春学園シリーズ>第11回

水沢有美さんと<青春学園シリーズ>第11回
第一部:夏木陽介主演『青春とはなんだ』(10)
先生!わたしは小沢佑子です!~『青春とはなんだ』第36話「泣き虫健介」篇~
 

 第36話「泣き虫健介」は夏休みももうすぐ終わる頃が背景になっています。ただし、これが放映されたのは、1966(昭和41)年10月2日という秋真っ盛りの頃のようです(宇留野仁一『「青春とはなんだ大全」』では9月18日に放送とありますが、〈青春とはこれだ!プロジェクト〉によれば、こちらが正しいようです)、ともあれプロ野球放送の関係で夏休みが終わってから相当、日にちがたってからの放送だったことには間違いありません。
 脚本はメインライターの須崎勝弥、監督は松森健という布陣でした。ちなみにメインライターというのは、連続物のドラマを複数の脚本家で書く場合に第1回や最終回といった物語の設定および核になる部分を担当する脚本家をいいます。『青春とはなんだ』の場合、第1回と第2回の基本設定の話は井手俊郎が執筆しましたが、当初の最終回予定だった(『大全』による)第25話「どろんこ作戦」と最終回の第41話「この日を永遠に」は須崎勝弥でした。何故、メインライターという言葉を説明したかは後述する部分に関わってくるからなので記憶にとどめておいてください。
 
〈夏休みも終わりに近づいてきたある日、久保・寺田(木村豊幸、矢野間啓治)コンビと順子・勝子コンビ(豊浦美子、岡田可愛)の4人は、ある企みを相談していた。それは「何とかして野々村健介(夏木陽介)の泣きっ面を見てみたい!」というものでした。しかし、久保・寺田コンビが野々村先生の下宿に奇襲をかけたりするが失敗。順子・勝子コンビも佑子(水沢有美)や光子(松田八十栄)、幸子(遠山智英子)らと一緒に永井先生に応援を求めるのですが、スーパーマンみたいでとても敵わないということで断念。しかも下宿屋のおやじ植源の代わりに料亭「やよい」での植木屋の宴会に赴き、酒二升を平気で平らげ、みんなをあっけにさせてしまったのでした。これを見ていた順子の報告に喫茶店「焔」に集まっていた勝子たちは「泣きっ面をみるのは無理だ」とあきらめかけていました。しかし、そこにさえない顔をした野々村先生がやってきたのです。酒を飲んだ後のことをまったく覚えていないし、もしかしたら盗みをしたのかも知れないと情けない顔をしていたのです。一挙に勢いづく勝子たちは、さっそく野々村先生の昨夜の行動を探求することに。〉

 話の梗概はこういった感じですが、まず恒例のキャスティング・ボードから見ていきましょう。

1枚目 夏木陽介
2枚目 藤山陽子
3枚目 豊浦美子、岡田可愛
4枚目 木村豊幸、矢野間啓治
5枚目 松田八十栄、水沢有美、遠山智英子
6枚目 門脇三郎、篠原正紀、佐渡絹代、大谷由比子
7枚目 渡辺篤、北見治一、平井岐代子
8枚目 土屋嘉男、二瓶正也
9枚目 宮口精二、賀原夏子
10枚目 久保菜穂子

 メインの生徒役4人に加えてサブ女生徒の水沢有美さんをはじめとする3人の7人が登場です。佑子は前々回の夏休み最初に蓼科高原で盲腸炎となり入院したのですが、もうすっかりよくなったらしく元気に走り回っています。では、水沢有美さんの登場シーンを追っていきましょう。今回は34場面中で9場面ほどに登場します。

第1場面(#6) 順子の部屋
 永井先生を囲んで順子、勝子、佑子、光子が座っています。何とか野々村先生の泣きっ面を見たいのでが、それには永井先生が適任だと4人がかりで説得しようとするのです。密室に5人だけのシーンですから佑子(水沢有美)のセリフのシーンでは顔アップが充分に見られます。惜しむらくはフルショットでは、後ろ向きからしか伺えないのが残念です。こ場面を採録してみましょう。

 久保、寺田の2人を学校の図書室にいる永井先生を呼び出してきてもらった順子は、「みんな待っています。勝子に佑子に光子」とやよいにやってきた永井先生を部屋に招きます。

順子(豊浦美子)「あたしたち、先生だけが頼りなんです」
永井先生(藤山陽子)「頼りって?」
順子 「野々村先生を一本参らせるんです」
永井先生 「まあ」
勝子(岡田可愛)「だって完璧でしょう。野々村先生は」
永井先生 「いいじゃないの。そういう先生に教えていただけるんだから」
勝子 「でも世の中に完璧であることは許されないと思うんです」
永井先生 「おやおや、むずかしいお話になりそうね。でも、野々村先生ってあなたちの太陽じゃなかったのかしら」
順子 「太陽だってたまには月の影になって欠けることがあります。(佑子に)ねえ」
佑子(水沢有美)「そうよ。一人、野々村健介にだけを完璧を誇らせておいていいものかしら」
勝子 「いけないわ。彼も一個の弱き男性であるべき」
光子(松田八十栄)「弱さとは何ぞや?」
順子 「美しい女性の前にひざまずくことである」
佑子 「美しい女性とは?」
勝子 「すなわち永井明子先生(指差す)」
永井先生 「まあ…」
 全員で拍手。
永井先生 「いけないわ。あなたたち先生をからかったりして」
光子 「いいえ私たち真剣なんです。ねえ」
順子 「そうよ。学校がはじまるとお互い先生だという意識が邪魔をするから今がチャンスです」
永井先生 「困った人たちね」
勝子 「先生! どうかしら。野々村健介をひざまずかせる自信のほどは?」
永井先生 「(首を振って)ないわ。とても」
順子 「ダメねえ」
佑子 「しっかりしてください」
光子 「先生、ファイトを出して」
永井先生 「だけどね。野々村先生ってとても強い方でしょう。私なんかじゃどうにもならないの。立派過ぎるわ」

 この場面の会話がのちの展開に大きく関わっていくことになります。次の#6では、最後の永井先生のセリフを受け継ぐ形で、下宿の庭先で久保、寺田たちに野々村先生の「そんなことはないよ。俺は自分ほど欠点の多い奴はいないと思っているんだ」を言うのです。

第2場面(#15)夜道
 料亭やよいでの植木職人たちの宴会で、日本酒をすべて飲み干した野々村先生が、千鳥足で帰りの途についたのですが、酔って頭が朦朧としてきます。そこで、生徒たちの名前を思い出して言ってみようとするのです。このシーンで、生徒たちの顔が虚空に現われます。松井勝子、寺田勇作、山下順子、高松保男と順調に言いその次に佑子、光子、幸子の3人が一緒に登場するのですが、ここで脚本上のとんでもない間違いが飛び出します。

道路のマンホールのふたあたりに水沢有美、松田八十栄、遠山智英子さん3人が揃って浮かび上がる。
野々村先生 「束になってかかってきたな。伊藤佑子、川崎光子、小野幸子だ! ハハハ、ザマ見ろ!」

 最後の幸子の姓ははっきりと聞き取れなかったのですが、水沢有美さんの佑子は「小沢」だったのに「伊藤」と野々村先生は呼んでいます。
 前に述べたように脚本の須崎勝弥はメインライターです。登場人物の設定は熟知しているはずです。水沢有美さん扮する佑子は第33話「風が見ていた」で永井先生から「小沢佑子さん」と呼ばれていますし、第34話の「太陽と青春」で盲腸になって入院した時にも野々村先生の口から「小沢君の具合はどうです」と言われています。光子と幸子に関しても須崎勝弥脚本である第13話「危険な年輪」で、古川満子であり木村幸子であるとされています。どうしてこのような間違いが起きたのでしょう。あるいは、間違いというより次の木村豊幸さん扮する久保の名前が思い出せないシーンと続くので、この3人の段階で酔いがまわった野々村先生が間違えてしまった。と考えるのがいいのかも知れません。
 
第3場面(#19)喫茶店「焔」
 昨晩の野々村先生の酒豪振りをみんな(勝子、佑子、光子、幸子、久保、寺田)に報告している順子。佑子の「ちょっとしたスーパーマンよ」というセリフも飛び出し、野々村先生に一本取って泣きっ面を見るのは絶対に無理だと思う一同ですが、そこへさえない表情の野々村先生がやってきます。昨晩の記憶がまったくなく、昨晩、この喫茶店「焔」に押し入った強盗かも知れないとこぼす野々村先生だったのでした。

第4~5場面(#20)森山警察署前
 警察署にやってきた野々村先生は、警察官の三瓶(二瓶正也)に強盗容疑で捕まえてくれといいます。そこに生徒たちも急いで走ってきます。第34話「太陽と青春」で盲腸炎になり、手術した佑子もしっかりと元気で走ってきました。私も高校1年の12月に盲腸炎となり手術し、10日間ほど入院して年末に退院しましたが、新学期すぐの体育の授業はとても参加できませんでした。ただ、私の場合、学期末に入院し、数日後に冬休みに入ったので、クラスの誰もが私の入院のことを知らずに新学期になってもまったく気を使ってくれませんでした。ともあれ、佑子は驚異的な回復力を見せたのでした。

第6~9場面(#23)永井先生の自宅庭
 警察官の三瓶から昨晩は永井先生に送られて帰ったと聞かされた一同は、永井先生の自宅へと押しかけるのでした。あいにく永井先生は出かけていて待つことになるのです。この場面では、勝子や寺田が昨晩の野々村先生と永井先生の行動を空想するシーンがあったりします。そして帰ってきた永井先生に昨晩の真相を聞くのでした。野々村先生も普通の人の子だったことがわかる人間味溢れたエピソードとなる真相なのですが、この第36話「泣き虫健介」は『青春とはなんだ』全41話の中でも私のベスト3の一つに入る傑作ストーリーです。推理物としても秀逸なストーリーとなっていると思いますので、真相部分は、重要なネタばらしになるので、あえて記しません。未見の方はいつか見るまでの楽しみに取っておいてください。

 ところで、個人的にちょっと気になったことが名前を間違えた以外にこの場面でも感じました。確か永井先生は森山高校に汽車に乗って通勤している設定だったはずです。しかし、この場面では野々村先生と生徒たちは、雰囲気的に森山警察署からそのまま歩いて永井先生の自宅に移動したようにしか見えないのす。もちろん汽車に乗って移動するシーンがカットされたのかも知れませんが、警察署からすぐに永井先生の自宅前に場面が移りますし、野々村先生は下駄履き(これは野々村先生のキャラクターなので問題はないが)、生徒たちも身一つでバックなどお金を身につけているようには思えない格好でくるので、そのように感じ、疑問に思ってしまいました。

 この一話は少年探偵団の如く高校生探偵団が活躍する一種のミステリー物だけあって色々と謎もたくさんでてきました。で、一番の謎は水沢有美さん扮する裕子の驚異的な回復力です。でも、若いからひと月で走り回るのも問題ないのかも知れませんね。

 なお、この頃に水沢有美さんは歌手デビューを果たすことになります。『美しい十代』(学研)というジュニア向けの女性誌の1966年11月号の目次裏に「十代ヒットパレード」として西郷輝彦さんとのデュエット曲「兄妹の星」の楽譜とともに水沢有美さんと西郷輝彦さん、お二人の写真が掲載されています。そのキャプションには「西郷さんの初デュエットでデビューをかざる水沢有美さん」とあります。11月号は10月初旬には発売されますから9月頃に「兄妹の星」は発表されたことになるのでしょうか。こうして水沢有美さんは歌手としての活動を始められるのです。

では、次回は第37話「あの標的を狙え」です。この中で水沢有美さんの歌っている姿がでてきますが、残念ながら「兄妹の星」ではありませんでした。




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